式辞
厳しい寒波と記録的な暖かさが交互に訪れた、変化の激しい冬もようやく終わりを告げようとしています。
「東風(こち)の門」に吹く春の風は、咲き急いだ紅梅の花びらをやさしく空へと送り、白梅もまた静かにその時を迎えています。春を告げる梅が、その役目を終え、新たな季節へと道を開くように、皆さんも今、新しい世界へと歩み出そうとしています。
本日は、公私ご多用のところ、多数のご来賓の皆様のご臨席を賜り、ここに第七十九回卒業証書授与式を挙行することができました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。
また、保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。今日まで、深い愛情を注ぎ、励まし続けてこられた皆様の喜びもひとしおかと存じます。保護者の皆様方には、心より敬意を表し、お祝い申し上げます。
さて、本日、本校を巣立つ二百九十六名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
皆さんが本校に入学したのは、令和五年の春でした。ちょうど新型コロナウイルスが「五類」へと移行し、世界が再び動き出した節目の年です。皆さんは、新しい時代の風を全身に受けながら、一歩一歩、この学び舎で確実に歩みを進めてきました。
特に、生徒会行事「星誕祭」で見せてくれた、学年の枠を超えた圧倒的な一体感。そして修学旅行では、次なる時代の息吹を感じる万博会場を訪れ、世界中の未来の姿をその目に焼き付けました。 まさにアフターコロナの風に乗り、前例のない企画にも果敢に挑む皆さんの姿は、実に頼もしいものでした。
先ほどの、皆さんの呼名に対する爽やかな返事を聞き、その凛とした表情を見ながら、この三年間、皆さんがいかにして、学年訓の三つの「シンカ」という言葉を大切にしてきたかを思い返し、胸が熱くなっています。
まだ鮮明に記憶がよみがえる、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック。雪と氷の上で繰り広げられた熱き戦いには、皆さんが目指してきた学年訓、「進化・深化・真価」の姿と、本校が大切にしてきた「利他共生」「二十四時間をデザインする」「凡事徹底」の三つのキーワードが、見事に重なって見えました。
フィギュアスケートの選手が、一瞬の滞空時間に込めた美しき跳躍。スノーボードの選手が、重力を置き去りにするかのような神業とも言えるエア。これらの圧倒的なパフォーマンスは、一朝一夕で生まれたものではありません。
そこには、自らの生活を律し、睡眠や食事、練習のすべてを「二十四時間をデザインする」という覚悟で整えてきた日々がありました。これこそが、昨日までの自分を超え、高みへと進んでいく「進化」の原動力だと思います。
また、カーリングの選手たちが、氷のわずかな変化を読み、ミリ単位の調整を繰り返す姿。モーグルの堀島選手は、大技を百発百中で成功させるために、毎日数十回、来る日も来る日も飛び続けたといいます。
当たり前の動作を、誰にも真似できないほど徹底的に、繰り返す。その「凡事徹底」の積み重ねこそが、技と心を、誰にも揺るがせることができないほど深く「深化」させてきたのです。
そして、多くの人が最も心を打たれたのは、勝負が決まった後の光景ではないでしょうか。激しい戦いを終えたライバルを真っ先に抱きしめ、互いの健闘を讃え合う姿。自分のスタイルを貫く姿をリスペクトし、他を優先する姿勢は、まさに「利他共生」の姿でした。
極限の状況でありながら滲み出る、人としての美しさ。これこそが、勝利という結果以上に尊い、その人の本当の価値である「真価」だと感じています。
これらは、一見すると、私たちとは遠い世界の、特別な才能を持った人たちだけの物語に思えるかもしれません。
しかし、皆さんが、日々の生活の中で意識してきた三つの「シンカ」、そして本校の三つのキーワードは、こうした世界最高峰の舞台でも通用する、極めて普遍的で崇高な考え方なのです。それは、学校という枠を大きく超え、皆さんのこれからの長い人生を支え続ける、本物の「知恵」であると確信しています。
では、なぜ本校が掲げた目標が、世界の頂点と同じ高みにまで至るのでしょうか。
その根底にあるのは、極めてシンプルで、かつ最も困難な「積み重ね」です。
カー用品チェーン「イエローハット」の創業者である鍵山秀三郎氏は、かつてこうおっしゃいました。「微差、僅差の積み重ねが大差となる」と。
先のオリンピックに出場したアスリートも、明日から始まるパラリンピックに挑む選手たちも、その華やかな舞台の裏側では、誰も見ていないところで、気の遠くなるような「微差」を積み上げてきました。昨日より一ミリ高く、昨日よりコンマ一秒速く。その「僅差」にこだわり続けた者だけが、栄光を手にすることができるのです。
これまで、日々、皆さんが行ってきた、毎朝の挨拶、黙々と取り組んだ清掃、授業での何気ない対話など、当たり前のように続けてきたその「微差・僅差」こそが、今の皆さんを形作り、これから歩む未知の世界においても、皆さんをより高みへと導く揺るぎない力になると、確信してやみません。
これから皆さんが進む道は、予測困難な変化の連続かもしれません。しかし、競う相手は、周囲の人ではなく、常に「昨日の自分」です。古知野中学校で培った三つの「シンカ」と三つのキーワードを羅針盤にし、自分自身の「夢」へ向かい、自信を持って、力強く歩み続けてください。
結びに、本日ご列席の皆様の温かいご支援に心より感謝申し上げますとともに、本日お集まりの皆様方のご健勝と、巣立ちゆく皆さんの前途に幸多からんことを祈念いたしまして、式辞といたします。
令和八年三月六日 江南市立古知野中学校長 水谷政名