朝会より 【1年後のごめん】
- 公開日
- 2013/10/28
- 更新日
- 2013/10/28
校長室から
「一年後のごめん」
忘れもしない出来事があります。まだ先生が若い頃、2月の寒い日のことです。学年集会で体育館に入るため生徒達が並んでいました。そして、ホックがかけていない生徒を注意していました。中に体育では教えたことない生徒がホックをかけてなく、「おいしっかりかけろ」と注意しました。当時、その学校は1学年13クラスあり、体育も一人で全学級は教えられなかったのです。だから全く知らない生徒もいたんです。ところがその生徒は接してもいない先生から一方的に言われたのが納得できなかったのか、反抗的な態度をとるのです。仕方がなく体育館の脇の部屋に連れて行きました。それから、いろいろ話しかけたのですが、元が元のホックの話ですからあまり話すことがなく、それ以後は向かい合ったまま1時間でした。担任の先生が迎えに来て、その場はさよならで終わりになりました。
3年生になり、彼は担任の先生はやはりベテランの同じ先生でした。厳密に言うと、その先生にだけ心許していたのかもしれません。そして、なんと担任の先生はその生徒に体育の教科委員を命じるのです。『無理だろう。できっこないぞ。担任は何考えているんだ』と不安な気持ちと担任を責める自分がそこにいました。
体育の教科委員は1日前に教科担任のところへ行き、明日の準備について必ず聞きに行かなくてはいけません。彼も、もう一人の教科委員と2人で必ず聞きにきていました。春が過ぎ夏が過ぎ、バレーボールや水泳や保健など一緒に授業をやっていくのですが、彼と連絡以外の話をしたことがなかったものですから、彼が何を考えているかまったくわからなかったです。そして後期がスタートしました。その時、またもや彼は体育の教科委員となって列の端に立っているではありませんか。それも担任の先生の思惑だったのでしょうか。冬が来て、サッカーとなりました。彼はサッカー部でもちろんサッカーが得意でした。彼からパスをもらうこともあり、何となく彼が僕を許しているのもわかりました。
そして3月、最後の体育の授業が体育館でありました。彼の号令のもと、「1年間、ありがとうございました」と全員で挨拶後、体育館を出て行きました。そして、彼が一人、「忘れ物をした」と言って戻って来ました。もちろん忘れ物などありませんでした。
彼は一言「ごめん」と小さな声で言いました。全てがあの日に、ちょうど1年前の突っかかってきたあの日に戻りました。何も言葉になりませんでした。差し出した手をしっかり握り返してくれた彼でした。必死に涙をこらえました。男気が強い彼です。彼も必死にこらえていました。彼が体育館から出て行く後ろ姿はいまでもはっきり覚えています。今はどこかで立派なお父さんやってみえるでしょうか・・・。