【校長日記】 色丹島訪問記 −31−
- 公開日
- 2015/08/18
- 更新日
- 2015/08/18
校長日記
夏休み中を利用して、平成25年度 北方四島交流訪問事業(教育関係者・青少年)の報告をしています。
今日は意見交換会 その3です。
ダネリア:最初に時間とかテーマを確認していないが・・・。
副団長:テーマに関しては教育。(「変わってもいいか」の声あり)
ダネリア:質問してもいいか。私は英語が専門だが、専門教師がいないので社会科も教えている。
9歳〜14歳までは、週1時間社会科を勉強する。その中で、社会の仕組みの基本を教える。
10年生からは週3時間に増える。「社会科」を5つに分け、法律、経済、哲学、社会心理、政治を勉強する。社会科については自分で勉強して学んだが、日本では今のように分かれているのか。
日本では社会科をどう教えているのか。
団員:教頭先生に聞いたが、ロシアでは、社会と地理と歴史はそれぞれ独立した教科だ。
ダネリア:我が校の社会科は5つの柱にして取り組んでいる。繰り返すが、その5つがそれぞれの専門の科学である。それを、一人の先生が全部教えるのは大変だがどうか。
団員:日本では小中学校は総合社会科。小学校では地理と歴史。中学校ではそれに公民が入る。
地理は、実際にどこでどんなふうに生活をしているのかを学習する。
歴史は、昔どんな生活をしていたか、どんな出来事があったか、そこから何を学ぶかを学ぶ。
公民はそれを生かしてどう生活するのか、どんな社会にするのか。公民的資質というが、大人になって、どう生活をするのかを学ぶのが社会科である。
高校になって、さらに政治・経済、倫理・社会と分ける仕組みになっている。
ダネリア:とてもおもしろいので確認したい。地理と歴史はよくわかる。
たとえば、高学年は、ロシアの選挙制度を教える。権力組織や国、州、地区の政治を教える。その授業が終わると、市場経済、グローバリゼーション、お金、市場とは何かを教える。次に、法律を教える。民法、権利、憲法、各国の憲法を教える。
文化についても話をする。また文化に反すること、トランスカルチャーも教える。
社会科という形で5つの柱をカバーしなければならないが、日本の先生はどう授業をするのか。国と国の条約や政治はどう教えるのか。
団員:高校は専門分野を教える。政治や経済の先生は、その科目を中心に一人で教える。大学受験のために専門的な知識が必要だから。歴史も一人で教える。
ダネリア:そんなに大きくない学校でも、専門家が教えるのか。
団員:日本には小さい学校がないので、イメージしにくい質問だ。専門家が教えている。
ダネリア:私は、週に社会科を13時間教えている。他に、英語3時間、安全2時間などで、合わせて19時間だ。全体的には少ない方だが、みなさんはどうか。
団員:同じぐらい。道徳や学級活動など全部入れると、だいたい20時間前後になる。小学校はもっと多く、全部の科目を教える。
ダネリア:授業の持ち時間数は先生によって決まっているのか。
団員:子どもの授業時間数は定められているが、先生の持ち時間は決まってはいない。
ダネリア:それでは、給料は何によってきまるのか。たくさん教えるからか。
私は19時間で、1時間いくらと決まっている。レポートを調べることによって、少しお金がもらえる。
また、経験がプラスされる。レベルによっても換算する。日本ではどうか。高校と小学校で、時間数が違っても給料は同じか。
団員:年齢だ。高校が高くて中小学校は少し下がるが、時間数には関係なく給料は同じである。
ダネリア:国はみなさんの労働を正しく評価して給料をくれるのか。(笑)
団員:日本では、2年前に大震災があり、防災教育が始まった。色丹も災害があると思うが、何を指導しているか。
ダネリア:色丹島の地震と津波の危険性は日本と同じ。東日本大震災では、色丹の住民も心を痛め、大々的に支援も行った。
1994年10月の北海道東方沖地震では破壊的な被害を受けた。
そこから、震災の教訓を学んで、犠牲を出さないように授業をしている。生活における安全の基本という授業をやっている。
そこでは、震災や気候変動によって起きる災害に対してどうするかを子ども達に教えている。また、地震と津波に関しては、どうして起きるのか、起きたときにどうするのかを教える。
日本では地震の訓練を見る機会があったので、本校でもそれを生かしている。
地震が起きたときは、子ども達は、机の下に隠れるとか、柱の陰に隠れるなど、瞬時に体を動かすくらいに訓練している。
今学校の校舎は耐震の最高のものを使って建てているので、問題はない。
団員:安全の授業の教科書はあるか。週に何時間教えるのか。
ダネリア:安全について、本来はすべての学年で学ぶべきだが、8年生と10年生しか教えていない。専門の先生には、それではいけないと言われたが。
8年生で週に1時間、10年生で1時間あり、教科書もある。
10年生は、ロシア全体で、軍役をやるのが基本なので、応急処置、軍備、軍に入る心構えとかそのことをやる時間が別にもう1時間ある。年間34回だ。
団員:徴兵制があるのか。
ダネリア:大学に入学するか、健康に問題があるか、家庭状況が許さないかなどのちゃんとした理由がなければやる。
兵役は1年間。18歳から28歳までの間で1年間やる。18歳になると、徴兵状がくる。大学生は終わってから、健康に問題がある人は治ってから、かならず軍役に着く。免除ではない。兵役を免れるには、結婚して子どもを二人以上作ればよい。(「だから結婚が早いのか…」の声あり)また、母にハンディキャップがあり、家庭を支えるのが自分しかいないとなれば免除される。
徴兵時には、わずかではあるが、給料がもらえる。最近は、兵役だけではなく、職業軍人として、国防省とプロとして契約すると給料はいい。
大学に行けない学力だった私の教え子は、軍人になったら、私より給料が2、3倍いい。
団員:本土の平均所得と島では違いがあるか。
ダネリア:昔は違っていた。これには、二つ手当がある。北方手当で給料が2倍。これに僻地手当があって2.5倍になるが、いろんな理由で、本土の給料とあまりかわらない。
一般的には、給料には非常に差があるので、平均給料は出せない。おおよそ1,700ドルぐらいではないか。もちろん例外もあり、先生でも4,000ドルの人がいる。
ただ、基本給だけではなく、住居は国から与えられ、光熱費も無料。それと、もう一つは2年に1回、島からロシアのどこでも行く費用の往復の運賃を国が持ってくれる。
いろんな特権は、公務員だけではなく、ここに住んでいる人は誰もがある。民間は使用者が払うことが法律で決まっている。
家賃とかは、先生、文化系の人(芸術家)、軍人、医師は払わなくてもよい。暖房費(光熱費)は払ってもらえる。
団員:色丹島には、どのくらいの人がずっと住んでいるか。
ダネリア:そんなに多くはないがいるにはいる。私はサンクトペテルブルグ出身だが、ここへ来て、子どもが二人生まれた。二人とも、大学はサンクトペテルブルグに行っている。ここで生まれたが、仕事はここではやらないだろう。
どれぐらいがずっと住んでいる人か、興味を持った質問なので調べてみたい。
副団長:大変熱心な意見交換をありがとう。
ダネリア:島側の教員が少なくておわびしたい。私の方も、質問ができよい機会であった。
副団長:私たちは同じ仕事をしているので、それぞれでがんばっていきたい。
〈 感 想 〉
あっという間の2時間であった。
近くて遠い国ではあるが、校内を見学し、直接意見を交流する中で、心理的な距離は大きく縮まったと思う。社会科教員としての情報交換に時間を割いたために、領土問題についての認識や子ども達の意識等の質問には踏み込めなかったが、こうした草の根交流をベースにして両国の友好関係を構築し、領土問題が解決することを心から望みたい。